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Wisdom

ほんものの魔法とは。

マジシャンはトリックを演じられればすぐに魔法使いになれるわけではありません。
このページでは魔法使いになるためのエッセンスをご紹介します。まずはこのコラムをお読みください。

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「なんか怪しいな。」と彼女はいぶかしそうにこちらを見つめながら、頬を膨らませて言った。 いつもの自信ある鉄板ネタを演じたつもりだったが、大きな拍手はもらえなかった。どこかでミスをしたがろうか。 いや、カルは完璧だったし、ダブルリフトもズレていなかった。あまり感情を表に出さないタイプなのかもしれない。 彼女はずっと僕の手元を見ていたが、その技法はバレていなかったはずだ。次はイケメン大学生マジシャンの番だ。 マジックが始まると、徐々に目を輝かせ、「すごーい、魔法使いみたい!」と言った。 彼はカッコいいし、派手なマジックを得意とする。女性にはそういうネタをチョイスするべきがったかもしれないと僕は後悔した。 マジックが終わった後も、ニコニコと話してから帰っていった。マジックなら人気者になれると思ったのに、 結局モテるのはイケメンなのかとため息をつき、僕はこのパーを続けていける自信がなくなった。

▽彼の犯した失敗

「同じマジックを演じても、ウケる時とそうでない時がある。」
これは多くのアマチュアマジシャンが抱えている疑問かもしれません。 そんな時は、ついお客様のせいにしてしまいたくなります。

「今日のお客さんは反応が悪いな。」

果たして本当にそうでしょうか。 さて、上記のストーリーから彼(A君)の犯した失敗を分析してみましょう。 始めに、お客様は「感情を表に出さないタイプではない」と分かります。 A君が演じた時から、彼女は頬を膨らませていましたし、感想も言ってくれています。 お客様はマジックが不思議かどうかは言ってくれますが、どう感じたか、までは言ってくれません。 これはマジシャンが観察をするしかないのです。 もし、マジックを演じるだけではなく、一歩踏み込んで、相手の感情を読み取り、それを動かすことができれば、 単なるトリックが魔法となります。 A君は「彼女が手元をずっと見ていた」といいました。おそらくそれは事実です。そして、それはなぜなのでしょう。 A君が下を向いて自分の手元をずっと見ていたかもしれませんし、彼女を見て雑談をしなかったからかもしれません。またそのどちらも。 この「雑談」というのは、実は大変重要です。マジックを面白く見せるためには、まず自分を知ってもらう、 あるいは、お客様を知ることが重要なのです。 初対面なら尚更です。つまり、イケメン大学生マジシャンB君は、 この「会話」を大切にしていたのでしょう。マジックが始まる前も後も。

▽マジックは技術か、見せ方か。

マジックはコミュニケーションツールです。よりマジックを知っていくと、そのタネの素晴らしさに感動し、また落胆するようになります。 大切なことは「マジックをどのように見せ、どのように喜んでもらうか」なのですが、 タネや技術の部分だけに注目をしてしまうようになります。 もちろん、そのマジックに怪しさを感じさせないために、技術は必要です。 そもそもカードがズレていることが見えていたら、どんなに演出を工夫しても、魔法の世界には引き込めません。 また、不測の事態に対応するため、様々な技法は知っておいたほうが良いです。 「コントロールはダブルカットだけ出来れば良い」という考え方では、 カードをまったくいじっていないように見える状況のマジックを演じることができません。 一方で、完璧な技術をもっていても、演出がなければ、ただの「見せびらかし」になってしまいます。 A君の場合、その演出が足りなかったかもしれません。「これから魔法が起こる」という雰囲気であったり、コミュニケーションの部分であったり。 これは一朝一夕にできるものではありません。 お客様を観察し、その場の機転で台詞をいうことも重要です。 しかし、マジックを始める前に、「今日はトランプを使ったマジックをお見せします。」ではなく、 「最近、とても不思議なことを発見したんです。」と言ったとしたら。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

クロースアップマジックを演じていると、少なからず、 「今日のお客さんは反応が悪いな」であるとか、 「このお客さんはやりずらいなー」と感じることがあると思います。 最初のうちは、自身のマジックを演じるのが精いっぱいで、 なかなか「対応をする」ことにまでは、目が向きません。 例えば、面倒なお客様に最初は応えていたものの、 だんだん対応することができなくなってしまい、 最後は全体の空気が悪くなってしまうことがあります。 厳しい見方をすれば、マジックは成功したかもしれませんが、 お客様全員が楽しめなかったのでは、 結果的にエンターテイメントとしては失敗になってしまいます。 もちろん、全てのケースが成功に導けるかというと、 なかなか難しい部分があります。しかし、 基本的なパターンを覚えておくことで、 演技者の心も楽になりますし、 そういったお客様に当たった時も、ブルーな気持ちにならなくて済みます。 その対処方法を伝授いたします。

マジックを演じるための心構え

まず始めに、クロースアップマジックを演じるうえで、 マジシャンは観客に少なからず「ストレスを与えている」ということに、 もっと理解を深めなくてはいけません。

1)事実として、マジックは騙される・騙すものである。

2)マジックによっては、いろいろなお手伝いをお願いすることがある。

3)映画や演劇とは違い、目の前で見れ、会話ができる。


1)はもっとも大切な事実です。 私はマジックは「魔法」であり「エンターテイメント」であると考えています。 しかし、日本の文化的に、どうしても 「マジック=イカサマ」と考えられている人も多くいます。 そのため、「イカサマ=騙されたくない」という心理が働き、 防御的な反応になることが多いのです。 しかし、考えてみれば、映画も視覚的に騙したり、 あるいは、最後のどんでん返しで騙すこともあります。 素晴らしい映画を見て、観客が嫌な気持ちにならないのは、 その世界観ができているからです。

2)適度なお手伝いはコミュニケーションにとても有効です。 しかし、何度も同じ観客にお手伝いをお願いすることは悪影響を与えます。 人前に出たくない人もいるのです。 また、小さいお子様を連れているお母さんに、 「女性だから」といって、安易にお願いをすると失敗をします。 お願いをする観客は慎重に選び、また感謝の気持ちを忘れてはなりません。 それらはマジシャンの都合なのですから。

3)会話とは「言葉のキャッチボール」です。 観客のリアクションがあれば、それに応えねばなりません。 一方で、失敗をしても、それをリカバリーできるチャンスもあります。

以上のことを踏まえて、今まで演じてきたマジックを振り返ってみてください。 人と人とが関わるわけですから、時にはうまくいかないこともあるでしょう。 しかし、大切なことは、常に観客の心を読み、最善を尽くし、 もし失敗をしたら「どうやったら解決できたか」を考え、知識を蓄えていくことなのです。

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困った客のあしらい方

さて、実際の対処法をみていきます。
まず、ベースとなる考え方は「プラス思考」です。 観客の反応や質問をマイナスからプラスに変えることです。 結局の「答え」は変わらないのですが、 前置きをすることで、伝わり方が柔らかくなるのです。
例えば「もう1回やってみて」と言われたとします。 当然「無理です」と言いたいところですが・・・ それでは、面白くないですし、きつい言い方なわけです。 もちろん、誘惑に負けて同じネタを見せてしまうと タネがばれるリスクが高まります。

以下の考え方を利用してみましょう。

(1):誰か・理不尽なルールのせいにしてしまう。

「魔法界の法律で止められているので・・・」

「医者に1日に1回と言われているのです・・・」

「今日はもうMP(魔法力)が尽きてしまって・・・」

「……トランプが嫌がってます」(デックに耳を当てて)

「2回目からは有料になりますけど、それでもよろしいですか?」

「実はですね、ここだけの話、某保険会社が  新プランを売り出してまして、その名も”マジック保険”というものがあるんですよ。  そして、私はその保険に入ってるんですよ。  ただ、その条件として、”同じマジックは2回やらないこと”  と書かれているんです・・・。」

(2):質問の矛先を変えてしまう。

「え?もう一回?やってみる?」  (トランプをさしだしながら)

「わかりました!ではこのトランプを使って」(別のマジックをする)

「続きはWEBで!」

「ワタシ、ニホンゴ、ワカリマセーン!」

以上のようなフレーズをぜひ覚えて、笑いによって観客のリアクションをプラスに変えてみましょう。

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魔法使いのための格言集

格言集です。 息抜きにお読みくださいませ。
映画やマンガ、オリジナルの言葉があります。

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「小指を制す者はカードを制す。」 by Koudai

言わずと知れたボクシングの言葉をもじりましたが、 実際にブレイクをはじめとした基本技法は小指が起点になっています。 マジックでもしていなければ、小指を日常で意識して使うことはあまりないでしょう。 そのため、繊細に小指を使ってあげる必要があります。

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「トリックを演じることでマジックとなり、観客の心を動かすことで魔法となる。」 by Koudai

ただのタネをどこまで作りこめるかで、その完成度が違ってきます。 演技やセリフを作りこんだ段階ではまだマジックです。 観客を感動させたり、その世界観にひきこむことで心を動かして魔法となるのです。

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「良いマジシャンに必要な要素は、知識と経験と技術、そして、道具である。」 by Koudai

マジックには様々な要素が必要です。 技術だけあってもマジックは完成しませんし、知識だけあっても意味がありません。 机上の空論で演じた経験がなければ、様々な観客に対応できません。 そして、せっかく練習したマジックを見せる時に、 使い古したボロボロのトランプや、汗で黄ばんだシルクのハンカチによって、観客の心をがっかりさせることだけは避けたいものです。

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"No, try not. Do, or do not. There is no try."

「違う、"やってみる"ではだめじゃ。やるか、やらないかじゃ。
"トライしてみる"なんてものはない。」 by ヨーダ (スターウォーズ)

誰しも、マジックを「トライ」した経験はありませんか?
心構えをしていない時に、観客にマジックをリクエストされることは、良くあるものです。 綿密な練習をしたことを隠すために、さもその場で思いついたかのように 「ちょっとやってみようか」という言い方をするのは問題ありません。 しかし、問題なのは、ほとんど練習をしていないにも関わらず、「できるかな」という安易な考えで、観客の前に立ってしまうことです。 そういった「おごり」は捨てましょう。たまたま成功したとしても、それはラッキーだっただけです。

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"A Jedi uses the Force for knowledge and defense, never for attack."

「ジェダイはフォースを知識と防御のために使うんじゃ。
決して攻撃のためじゃない。」 by ヨーダ(スターウォーズ)

マジックの上級者の発想は、どうやったら楽しませられるか?を常に考えていることです。 例えば、気に食わない観客がいて、それに対抗して張りあったり、 この必殺マジックでノックアウトしてやろうという攻撃的な考えは、結果的に損をすることになります。 心を乱さず、冷静に。マジックは勝負ではないのです。 さしずめ、マジックの勝負相手は、ジョージルーカスといったところでしょう。

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随時、アップデートしていく予定です。(2016/6/7)

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マジックを盛り上げるための言葉

適切なタイミングでセリフを言うことで、拍手をもらったり、そのマジックを盛り上げることができます。

「あらかじめ申し上げておきます。 動かなければ・・・痛くないです。」

何か物を手渡してマジックをしたり、観客の手にコインが飛んでくるときなど、動いて欲しくない時に用いるフレーズです。 もちろん、実際には動いて問題ない時も、この言葉によって、これから何が起きるのだろうという盛り上げの効果があります。

「あ、ここ拍手のタイミングですよ」

できればマジックが起きた時に自然に拍手がおきるのが望ましいですが、 不思議すぎたり、タイミングを逃してしまうことがあります。そんな時はこのフレーズです。 できればそんな悲劇はないほうがよいですが、「あ、ここ笑いどころですよ」という使い方もできます・・・。

「東京にも・・・こんな静かなところがあったんですね。」

じわじわ系フレーズです。きっとこの言葉だけでは、すぐに意味がわからないでしょう。 こんなシーンを想像してみてください。マジシャンの手に持っているトランプで、とても不思議な現象が起きそうです。 観客が固唾を飲んで見守り、マジシャンを見つめて、シーンとしています。とても場の緊張が高まっています。 そこでこのセリフをゆっくりとつぶやくのです。物悲しい感じで、哀愁を漂わせるとグッドです。

「突然ですが・・・お金って好きですか?」

コインマジックをする時には必ず言うセリフです。たいていの人は「はい!」であるとか 「好きです」という好意的なリアクションです。いずれの反応にしても、「そんな人の為に本物の銀貨を用意しました」 であったり、「世界の珍しいコインを用意しました」といって続けます。 ただコインを出すよりも、その道具に引き込むことができます。

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随時、アップデートしていく予定です。(2016/6/7)

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失敗した時の対処法

マジックに失敗はつきものです。
マジシャンにとっては失敗でも、 「失敗しました」と言わなければ、本当の失敗を避けることができます。 一番避けなくてはいけないのは、失敗したときに頭が真っ白になってしまって、 その場にかたまってしまうことです。 マジシャンが様々な状況を想定して練習をしておけば、そういった事態をある程度避けることはできます。 またカードの位置などは正確に把握しておく必要があります。 演技中に「今の感覚だともしかしたら失敗しているかもしれないな」と予想をしておくことで、次のプランが立てやすいのです。 もし、多くの知識や技術があれば、カード当てで失敗してもチェンジをしてリカバリーをしたり、 ブレイクを失っても、スプレッドカルでコントロールをし直すこともできます。

しかし、本当にどうしようもない状況なども発生する場合はあります。 そんなときは以下のフレーズを用いてみるとよいでしょう。

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「解説書によるとここで間違えることになっていました」

「これを教えてくれたひとが、いつもここで間違えてたんですよ」

「昨日の夢で見た通りになりました」

何かのせいにしてしまうというのは常套手段です。
「さて、本番はここからです。」と切り替えましょう。

「っさ、次にいきましょう。」

さらっと流してしまうのも有効です。 一番良くないのは、「もう1回やってもいいですか?」と執着することです。 そのマジックが成功しないと、全体の流れに影響する場合は仕方ない時もありますが、 たいていの人は「また同じ流れを見なきゃいけないのか」と思うでしょう。 ポイントは失敗ということに、マジシャン自身がとらわれないことです。

最後に、スターウォーズのジェダイマスター、ヨーダの言葉で締めくくりましょう。

ヨーダ「死は生命の自然な一部なのじゃ。フォースに姿を変えるものを喜んで送り出せ。彼らを嘆いてはならん。寂しがってはならん。執着は嫉妬を生む。そこに欲望の影が忍び寄るのじゃ。」

アナキン「マスターヨーダ、私はどうすれば?」

ヨーダ「自らの心を鍛え、おまえが失うことを恐れるもの、すべてを解き放て。」

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